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日本で一番新しい日本酒蔵(2019年春現在)壱岐「よこやま」の杜氏・横山太三さん特別インタビュー

壱岐のお土産

壱岐焼酎で有名な「重家酒造」の専務で杜氏の横山太三さんに、新しくできた日本酒「よこやま」シリーズの誕生秘話をお伺いしました。

壱岐・重家酒造って?日本酒「よこやま」とは

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グルメや麦焼酎発祥の地として有名な、実りの島・壱岐。 島内に七つある焼酎蔵の一つで、麦焼酎「ちんぐ」で有名な重家酒造が、28年ぶりに壱岐での日本酒造りを復活させました。

2018年秋には純米吟醸酒「よこやま」silverシリーズを発表!フルーティーかつフレッシュな味わいで、初年度から完成度が高いお酒♪とSNSで評判になっており、熱狂的ファンが増えています。 壱岐のお土産としても喜ばれる、知る人ぞ知る極上の日本酒「よこやま」。しかし1本目が出来るまでには、多くの不安と試行錯誤があったといいます。重家酒造の専務で杜氏の横山太三さんに、お話を伺いました。

有名な壱岐焼酎の蔵元が、日本酒造りを始めたきっかけ

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日本酒との出会いと、家族や壱岐島に対する思い

ー重家酒造は麦焼酎「ちんぐ」の蔵元として有名です。ちんぐは漫画「美味しんぼ」にも登場し、すでに人気が確立されています。そんな中、あえて日本酒蔵に挑戦したのはなぜですか?

もともと重家酒造は、平成2年まで日本酒をメインで作っていました。ただ、大手との価格競争が厳しくなり、杜氏も高齢化し日本酒をやめたのが、僕が高校2年の時。

平成11年に蔵へ帰ってきたのですが、その頃には焼酎だけを造っていました。その一年後、「ちんぐ」ブランドを立ち上げ全国展開していきました。当時、あまり日本酒には実は関心がありませんでした。「日本酒の免許、もう税務署に返そうか?」と父親に話をしていたぐらいです。

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ーそれはびっくり!日本酒造りをすることになるきっかけは何でしたか?

いちばん大きかったのは、長谷川社長(東京の地酒屋・はせがわ酒店)との出会いです。長谷川さんは、全国の日本酒蔵を周り、日本酒の認知度を上げることにかなり貢献された方。

はせがわ酒店オフィシャルHP  

平成19年に初めて焼酎の取引でお会いしましたが、長谷川さんはいつも焼酎を飲まれず、一緒に飲むときは日本酒ばかり勧められました。 「これ飲んでみろ!」と言われ、有名な蔵の銘酒をどんどん飲ませてもらったら・・・ 「旨いな、こんなの飲んだことない!」と。焼酎とはまた違う領域の美味しさがありました。

あるとき、長谷川さんが「日本酒を造りたいヤツが全国にいっぱいいるのに、おまえは免許を持ってて、なんで作らないんだ?」とおっしゃった。 そのひと言が、僕の心にグサーッ!と刺さりました。

ー長谷川社長には、なんと答えられたんですか?

当時は、なにも答えられなかったですよね。日本酒ってこんなにすごいんだ!とハマったタイミングで、自分自身も思っていたことをずばりと言われ、気持ちが奮い立たされました。

重家酒造には日本酒の免許がある。経営が厳しくやめてしまったけれど、父親の日本酒を造りたいという想いも分かっていました。 また、壱岐の日本酒蔵は「壱岐の蔵」さんと重家酒造だけ。壱岐の蔵さんは後に島内での日本酒造りをやめられて、「ウチが造らなければ、島の日本酒文化を継承できない」とも思いました。

・・・長谷川さんとの出会い、父親と私の想い、壱岐への使命感。 その3つがたまたまリンクして、絶対に日本酒造りをするぞ!と決めました。

壱岐での日本酒復活の鍵は、「東洋美人」の澄川酒造場との縁

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ー日本酒蔵への決意を決めてから、実際に壱岐で造り始めるまではスムーズでしたか?

いや、兄(現・社長)と喧嘩して、家族にも大反対されましたね!笑 蔵建設のための大規模な借金は、重家酒造にとっては生きるか・死ぬかのラインです。銀行にも当時、この売り上げで蔵は建てられませんとはっきり言われました。

しかし、やはり日本酒をやりたいとの思いのおり、澄川酒造場(東洋美人など)の澄川さんと出会いました。日本酒を造りたいと相談したところ「じゃあ澄川酒造場(山口県萩市)においでよ!一緒に作ろうよ!」と言ってくれたのが2013年のことです。

澄川酒造場オフィシャルHP

でも、いざ作ろう!というその時に山口県で水害があり・・・澄川酒造場の蔵が全滅したんです。蔵全体が1メートルの泥に覆われて。

ーそれは大変でしたね!

僕も3日後には泥掻きに行きました。はせがわ酒店の長谷川社長の声掛けで、のべ1000人が集まり泥掻きや洗浄をして・・・今年の造りは難しいかもしれないと思いましたが、どうにか匂いも取れ、半年後から仕込みできるようになりました。

蔵が復活したとき「僕のはもういいよ、自分の酒をまず作って」って言ったんです。そうしたら澄川さんは「約束したから。太三くんのお酒もやる」と言ってくれました。

2014年の3月に一緒に仕込み、5月には重家酒造の大吟醸「横山五十」の1本目が誕生。 それから4~5年間、澄川酒造場の蔵をお借りして日本酒のノウハウを勉強させていただきました。この日本酒「横山五十」を、国内はもちろん海外にも輸出して売り上げを伸ばし、資金面も現実化させていったんです。 そして2018年9月に壱岐島に日本酒蔵が完成し、同月14日から、壱岐島で「よこやま」の仕込みを始めました。

良い酒は良い原料から。5年間かけて探した水源や米

5年間かけて壱岐島じゅうを探した水

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ーいざ壱岐で日本酒「よこやま」を仕込むにあたり、こだわったポイントは何でしたか?

いちばん大切なのは水なんですよ。良い水がないと、良い酒ができません。 実は、5年かけて島じゅうの水を探しても良いところがなかったんです。もうダメか、ご先祖がやめろって言ってるのかな・・・と思ったら、最後に良いところが見つかり、じゃあここだ!と。分析にかけてみたら、軟水ですごく良い水質でした。

ここに88メートル地下水を掘っているんですが、元々は鉄管のパイプだったんです。日本酒には、鉄の成分が入ってしまうとまずダメなので、配管を全部ステンレスに変えました。組み上げた地下水は塩素(カルキ)ではなく紫外線殺菌装置で殺菌し、炭とフィルターでろ過して蔵へ引き込んでいます。 水だけでも、売れるレベルの品質なんですよ。洗米も仕込みも、この水を使用しています。

農家との信頼関係を築いてやっと、良いお米をいただける

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ー真ん丸に磨いてあるお米・・・贅沢ですね!

水の次に大事なポイントは、原料のお米です。 米は壱岐のものも使っていますが、それだけでは足りません。「山田錦」という最高峰のお米を、40%まで磨いて(60%捨てて)います。こういう良い原料からでないと、やっぱり良い酒はできません。いくら技術があり最新の設備を備えていても、原料が悪ければ味に反映されます。

でも、なかなか分けてもらえないんですよ・・・ 5年以上をかけて全国を周り、農家さんへ「壱岐の島で蔵を復活させたいんだ」との思いをしっかりお話しし、それだったら!という理解と信頼関係を得てやっと、お付き合いができるようになりました。

環境に配慮し、データ管理を徹底した現代的な醸造

処理槽までこだわる。サステナブルな工場設計

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ー今回は、特別に工場を見せていただきます。(通常は工場見学不可) 蔵の設計にあたって、環境にとても配慮されたとお伺いしました。

敷地には巨大な処理槽があり、毎日平均すると10トンの米のとぎ汁を処理しています。本当は普通に流してもいい、最終的に田んぼへ流れていく水です。小規模の酒蔵で処理槽を入れているところは、全国的にも珍しいと思います。

でも糠は白く濁るじゃないですか。流れの途中に腐ったり、夏場には臭うこともある。住民の方を配慮して処理槽を導入しました。どうせ酒造りをするなら、周りの人に心配を掛けずに、思いっきり正々堂々とやりたい! お金はかかりましたけどね。

徹底したデータ管理、現代的でクリーンな蔵

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ー工場の中は現代的で、一般的にイメージする酒蔵とは違いますね。そして寒い!笑

これくらい(5℃)の温度が、酵母にとって少しずつ発酵させられる最適温度なんです。高い温度帯だと香りを出してくれない。働く僕らには寒いですが・・・だからここまで冷房を完備し、もろみを1ヶ月かけて発酵させるんですよ。

洗米の時間、浸漬時間や温度、蒸米や放冷、麹づくり・・・僕らは全部データを取り、分析します。 全ての工程で、温度と湿度が一年中一定になるように調節し、管理しています。

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ーこちらは酒母(酒のもと)の部屋ですね。いい匂いがします!

こちらは40%の純米大吟醸で、2019年3月に「よこやま」goldとして発売予定です。この時点で僕らはある程度わかるんです。ああ、いい酒ができるなぁと。

部屋は5℃に管理しており、酒母の温度データも毎日とります。 酵母は温めると活動し、冷やすと活動をやめます。タンクの下にヒーターを入れてやって、アルコールを出す、休む、出す、休む・・・毎日繰り返す。そうやって、お酒って出来ているんですよ。

絞る最終的なタイミングは、杜氏の舌が決める

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ー細かなデータで管理されていることが印象的です。こうして、一定のクオリティが常に保たれるんですね。

ある程度、はね。データはあくまでも発酵できているかを裏付ける目安で、美味い酒かというのは別物です。でもデータがちゃんと取れていないと"ある程度"順調かどうかがわからない。もろみはどんなに頑張っても一本一本違うのですが、その許容範囲を、僕らはきっちり作れる設備にしました。

ただ、最終的には官能です。 毎日舐めていると『あ、ここだ!今だ』と分かります。

それはもう、杜氏の好みなんです。辛いのが好きな人は水をうって酵母を生かしてやります。 でも僕は甘いのが大好きだから、ちょっと甘酸っぱく、酸と甘みのバランスを大切にして絞るタイミングを決めます。こうやって僕らは数値化しつつ舌を使い、お酒を作っています。

初年度から高評価!壱岐の日本酒「よこやま」

プレッシャーの中で、できることを徹底的にやる。初年度から評判が高い「よこやま」

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ー壱岐で出来た日本酒「よこやま」は2018年秋の発売後すぐ、「クオリティーが高くて素晴らしいお酒」とSNSで話題になっていました。どうして、初年度から高い評価を得られたのでしょうか?

重家酒造に「横山五十」という最初の日本酒ブランドができ、美味いと評判になりました。 でも「横山五十」は、僕も一緒に作りましたが、澄川さんが何十年もかけて作り上げたノウハウで、澄川酒造場(山口県)をお借りして作ったお酒です。たかだか初年度の杜氏が作り上げられるわけがありません。

それでも、できるだけ「横山五十」に近づきたい!という思いで作り上げたのが「よこやま」です。 自分が作ったお酒へのライバル心というか、それ以下のものは作れない・・・すごいプレッシャーでした。蔵の披露会でも、見た方は「この設備でまずい酒ができるわけがない」とプレッシャーをかけています。

後悔したくなかったので、これでもか!というくらい準備しました。 ゴールばかり見すぎると不安になります。でも冷静になって、ひとつひとつ問題を分解していったんですよ。教わったことをひとつずつ正確に行えば、最終的に結果が出るはずだ、と。

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ー具体的に、どういった準備をされましたか?

例えば「匂い」。 木やパイプ、設備が新品だと、オフフレーバー(通常お酒にはない異臭)がつくんです。それがすごく心配で、とにかく匂いを取るための洗浄を相当しました。酒造りを始めたのは9月からですが、4月頃からずーっと清掃して匂いを消し、麹室の木には飽和蒸気を吸わせ、換気を繰り返しました。

技術が足りないとか、まずいのなら、自分が努力すればいい。 でも、オフフレーバーは悔しいじゃないですか。せっかく何十日もかけて朝からみんなで作業していて、最後に絞る時に「うわー、匂いがついてる」というのが一番ショックですので、工場に泊まり込みをしてずっと準備をしてきました。

ーそういった徹底的な準備が、初年度からの高評価に繋がっているんですね。

1本目が最終的に出来上がったのは、2018年の10月の中旬でした。飲んだ時に「これはいける」と。

ただ、完成しても、お客さんの口に入るまでは評価できません。蔵だと自分をえこひいきするんですよ。笑 でも飲食店で飲み「これだったら料理ともいけるな」と判断できて初めて、ちょっとだけ肩の荷が降りりました。最初からある程度完成形のお酒ができたので、少しホッとしています。

壱岐のどこで買える?「よこやま」ラインナップ

試飲してみた!ワイングラスで冷やして飲む「一杯目」

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わたしも「よこやま」を試飲させていただきました。フルーティーで果物をかじったような、透き通った甘さに顔がにやける! 飲んでいるうちに温度が上がり、さらに香りが開いていくのが印象的でした。

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おすすめの飲み方は、冷やして、ワイングラスで! 全国はもちろん、ワインの多い海外でも飲んでもらえるお酒を目指しているといいます。

もう一つのポイントは「一杯目に飲む」ことだとか。 「乾杯!で飲んでもらえればなと。 食中酒、食べながら飲むお酒は全国にたくさんあります。でも僕は、(味も香りも)ファーストドリンクのお酒を作っています。美味ければ2杯目も飲むじゃないですか。まずくても・・・一杯目は飲んでくれるじゃないですか。笑」

落ち着いた火入れ派?フレッシュな生酒派?酵母違いのラインナップ

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「よこやま」のラインナップは、ラベルで見分けられます。

  • ・赤ラベル:火入れ(落ち着いた味)
  • ・白ラベル:生酒(フレッシュなぷちぷち感)

    さらに、瓶口に貼られた短冊の色によって酵母が違います。

  • ・白(7):マスカット系のまったりとした甘み、適度な苦味
  • ・赤(1814):青リンゴや酸の細やかさ、スーっと引いていく品の良い甘さ
  • ・黒(189):バナナやマンゴーのようなとろみ。後半の味わいは引き締まる
  • ・緑(1810):もちっとふくよか。キレや苦味を軽く残し、食中酒向き
  • ・青(14):最初に爽やかな酸が広がり、後味はさらりと甘い

    独自の比率でブレンドされた酵母の違いによって、驚くほど味が変わります。飲み比べてみてくださいね♪

    「よこやま」シリーズが買えるところは?

    c4aa1d18-fd73-41b4-bf6e-a68cda2a1b83 重家酒造の工場では「よこやま」を購入できません。(通常は工場見学も不可)

    壱岐での販売店は以下の通りです(2019年現在):

  • ・林田酒店
  • ・久原酒店
  • ・松尾酒店
  • ・長島酒店
  • ・酒のかわむら
  • ・白川重家
  • ・吉田商店
  • ・森山酒店
  • ・川添ストアー
  • ・松尾商店
  • ・江川商店
  • ・ナガオカ
  • ・今西酒店
  • ・あまごころ本舗 (よこやまsilverシリーズはなし。横山五十は有り)
    おかいもの
    あまごころ壱場
    住所
    〒811-5132長崎県壱岐市郷ノ浦町東触597
  • ・マルエー生活館
    おかいもの
    マルエー食品館
    住所
    〒811-5132 長崎県壱岐市郷ノ浦町東触784
  • ・スーパーヤマグチ
おかいもの
スーパーヤマグチ
住所
〒811-5131長崎県壱岐市郷ノ浦町永田触268

店によって置いているラベルや短冊の在庫が違うので、お気に入りを探してみてください。

壱岐のお土産に!芳醇甘口の日本酒「よこやま」を

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インタビューの最後に、横山さんにとっての美味しいお酒とは?とお伺いしました。 「僕は芳醇甘口が好きですから、ふくよかで香りがあって、甘みもあって、最後が酸でパッと消える。自分が飲んで美味いと思う酒です。」

2019年3月には、特A山田錦の純米大吟醸40%「よこやまgold」が発売予定です。より繊細な味わいと香りだとか・・・実際に仕込み中の酒母を見せていただきましたが、うっとりする芳醇な香りでした。

甘口の日本酒ファンのみなさま、喜ばれる壱岐のお土産を探しているみなさま、重家酒造の「よこやま」シリーズをぜひチェックしてみてくださいね!

おかいもの
重家酒造合名会社
住所
〒811-5214長崎県壱岐市石田町印通寺浦200番地

文 / Grace Okamoto 撮影 / 練木良充

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